それは、日本では法律によって夫婦同姓が決められているのに対して、外国人との国際結婚の場合は配偶者が日本人なのか外国人なのかで手続きが違うからです。
では、どのような場合にどんな続きをすればよいのでしょうか?
本記事では日本の戸籍制度や役所への届け出の方法などを詳しく解説します。
名字や名前の変更の悩みがスッキリ解決しますので、ぜひ最後までお読みください。
外国人は日本の戸籍を作れないの?
戸籍とはその者が日本国民であること、またその者の親族関係を公に証明する書類です。
ですから、外国人の場合は日本国籍を取得しないかぎり、婚姻しただけでは自分の戸籍を作ることはできません。
外国人の場合は婚姻後に日本人配偶者の戸籍に入り戸籍謄本に日本人の配偶者であることの情報(氏名、生年月日、国籍)が記載されるのが基本です。
また、婚姻する日本人が戸籍の筆頭者でない場合は、日本人配偶者が筆頭である新しい戸籍を編成することになります。
国際結婚での名字の考え方。氏名権って何?
さて、ここで「氏名権」という法律用語について確認しておきましょう。
氏名権とはその名の通り自分の氏名に対する権利を主張するもので、自分の氏名を使用することを妨害されないようにしたり、勝手に使用されることを禁止する法律です。
ただし日本の民法ではこれを規定する法整備はされておらず、あくまで海外の法制にならって人格権の一種として認めているというだけで強制力はありません。
国際結婚の場合、戸籍登録においてはこの氏名権に基づいて結婚後の氏も夫婦間で話し合って決める問題であると考えられており、当事者の「本国の法律」によってお互いに判断することになります。
国際結婚の原則は夫婦別姓?日本人夫婦との違い
まずはじめに日本では名前を苗字、名、姓などと呼びますが、これらを法律用語では全てをまとめて「氏(うじ)」といいます。
日本には戸籍法というものがあり、日本人カップルは婚姻と同時に自動的に同姓となるため結婚するとふたりは同じ氏(姓)を名乗ります。
日本の民法では婚姻後の氏は夫婦どちらの姓を名乗ってもいいので、二人で話し合ってどちらかの氏を選択しなければいけません。
国際結婚の場合は夫婦別姓が基本ですが、それでも同姓にしたいという方もいるはずです。
手続きの方法は以下の二つに分かれます。
日本人が外国人の氏を名乗る
外国人が日本人の氏を名乗る
この二つは全く手続きが違いますので、役所に出向く前にしっかり予習していってください。
日本人配偶者が外国人の苗字を名乗る場合
日本人配偶者が外国人の苗字をそのまま使う場合の手続きはシンプルです。
婚姻後6ヶ月以内に役所(大使館・総領事館・市区町村役場)に出向いて届け出をするだけです。
ただ、届け出期限である婚姻後6ヶ月を過ぎてしまうと役所では手続きができず、家庭裁判所の許可を得なければ氏を変えることができません。
期日がいつまでなのかをしっかり把握しておくことで、手続きの手間を大幅に省くことができますので留意してください。
外国人配偶者の苗字に変更する場合で、次項のような変更を行う場合は少し手続きが面倒だったり、その後の仕様に影響が出るものがありますので、しっかり理解した上で手続きにいきましょう。
通名の届け出はどうする?
通名の届け出はとてもシンプルで、最寄りの役所の窓口に赴いて「通称記載申請書」を提出するだけです。
くどいようですが、婚姻から6ヶ月を超えてしまうと家庭裁判所の許可が必要となりますので、くれぐれも6ヶ月以内におこなってください。
役所に申請する場合は申請書に必要事項(届け出先役所、届出年月日、氏名、住民票上の住所、日本人配偶者の電話番号など)を記入し、本人確認書類と婚姻の事実を証明する資料(在留カード、パシポート、戸籍謄本など)を添えて提出するだけです。
役所によっては申請書の記入が違うこともあるので、日本人配偶者に同伴してもらった方がよいでしょう。
戸籍謄本に登録する際に注意すべき点は、戸籍謄本に記載できるのは日本文字の漢字とカタカナだけということです。
例えば、「smith」さんは「スミス」、「王」さんは「オウ」または「ウォン」として登録します。
韓国のハングル文字も当然カタカナで登録することになります。例えば「김(金)」さんの場合は「金」「キム」として登録します。
複合姓(ダブルネーム)の申請は家庭裁判所での手続きが必要
家庭裁判所での複合姓の取得はとても困難と言われています。
例えば複合姓が日本人として不自然な名前であると判断されたり、なぜ変更する必要があるのかが問われ、裁判官が納得する理由でないと申請は却下されます。
しっかりとした申立理由書を作成する自信がなければ、法律の専門家である行政書士などに依頼することも検討してください。
ちなみに申立先は申立人の住所地の家庭裁判所です。
必要書類
氏変更の申立書
外国人登録証
婚姻届の記載事項証明書
戸籍謄本
氏変更の事情を証明する資料、複合姓を使用した証明書や郵便物
手数料(8,000円)
返送用封筒と切手代
審理より必要な書類が追加される場合がある
家庭裁判所の許可の審判が確定した後の手続き
まず審判をした家庭裁判所から審判書の謄本と確定証明書の交付を申請します。
これらの書類を持って申立人の本籍地、または住所地の役場を訪れ、氏の変更を申請します。
住所地の役所で行う場合には戸籍謄本などの提出を求められる場合がありますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
外国人配偶者が日本人の苗字を名乗る場合
外国人配偶者は戸籍を持てないことは説明してきましたが、どうしても日本人の名前を名乗りたいといういう場合は「通名(通称名)」を使うという方法があります。
通名は公に認められたニックネームであり、運転免許証や在留カード、保険証やマイナンバーカードにも記載されます。
日本人配偶者は本名そのものが変わる!
日本人配偶者が氏を変更する場合は、外国人配偶者の氏の通名と違い、日本人配偶者は戸籍上の「本名」も変わります。
つまり、運転免許証からパスポート、はたまたポイントカードに至るまで氏を変える必要が生じるのです。
子どもの苗字はどうなるの?
子どもの苗字は日本人の親の氏となるのが原則です。
なぜなら日本で生まれた子どもは日本人の親の戸籍に入るためです。
もし子どもが外国人配偶者の苗字を名乗りたい場合は家庭裁判所に「氏変更の申し立て」を行なう必要があります。
家庭裁判所の許可が出ると子どもの単独戸籍が作られ、親とは別々の戸籍を持つことになります。
また、夫婦別姓の場合は日本人配偶者が「外国人配偶者の氏への変更届」を出していれば、子どもは外国人の親の氏を名乗ることになります。
外国人配偶者との間で生まれた子どもは二重国籍など複雑な問題が発生しますが、ここでは割愛します。
同じ戸籍にこだわるなら帰化するしかない
外国人の方の中には日本が気に入って日本人として生活したいと考える人もいます。この場合は「帰化」という手続きをすれば日本国籍を取得できることが法律で認められています。
これにより日本人と同等の権利を取得でき、本人の意思さえあれば一生涯日本に住むことができます。
外国人配偶者の帰化要件
外国人が帰化するためには基本の住所要件として5年以上日本に住所を有していなくてはいけません。
ただし日本人と結婚している外国人の方はこの住所要件が緩和される特例が適用されます。
条件の緩和を詳しく説明すると、3年以上日本に居住していれば住所要件を満たしたことになります。
つまり、外国人女性が就労ビザで来日して3年以上住所を有している場合で、日本人男性と結婚した場合はすぐに帰化申請することができます。
また、別の一例として、海外で日本人男性と結婚した外国人女性は結婚2年目以降に日本に移住し、1年が経った時点で帰化の申請をすることができます。
配偶者ビザでなくても申請できる
帰化の申請にはビザが必要ですが、必ずしも配偶者ビザでなくてはいけないということはありません。
帰化申請中の正規のビザであれば就労ビザでもなんの問題もなく申請できます。
ただし、ビザ申請してから帰化の許可が出るまでおおよそ10ヶ月はかかりますので、その間に期限が切れてしまった場合は就労ビザを更新するか、配偶者ビザを取得する必要があります。
離婚しちゃったら苗字はどうなるの?
さて、幸せな国際結婚をしたカップルでもいつしか熱が冷め、不幸にも離婚してしまうといったことはよくあることです。
平成29年度厚生労働省人口動態調査によると、同年度に国際結婚したカップルは2万1,457組で、そのうち離婚した夫婦は1万1,659組にのぼり実に国際結婚における離婚率は57%となっています。
そこで問題になるのがお互いの苗字です。
日本人同士の夫婦なら単にお互いの氏に戻るだけですが、国際結婚の場合はどうなるのでしょうか。
次項では夫婦の氏と子どもの氏について詳しく解説します。
夫婦の場合
夫婦別姓を選択している夫婦の場合は、離婚後も苗字は変わりません。一方で外国人配偶者の姓に変更している日本人配偶者は所定の手続きをする必要があります。
例えば婚姻して6ヶ月の間に外国人姓に変えている場合は役所に氏の変更届を提出すれば、婚姻前の苗字に戻すことができます。
ただし、離婚後3ヶ月以内に提出しなくてはなりませんので注意してください。
次に婚姻後も苗字を変えずに婚姻前の氏を名乗っていた場合は、特に手続きの必要はありません。
そのまま自分の氏を名乗ることができます。
婚姻して6ヶ月以降に外国人の氏に変更した夫婦の場合
離婚後3ヶ月以内なら「外国人との離婚による氏の変更届」を役所に提出すれば旧姓に戻すことができます。
なお、3ヶ月を過ぎてしまうと家庭裁判所に申請しなくてはなりませんので、くれぐれも注意してください。
ただし、結婚後6ヶ月以上が経ってから氏を変更した場合には必ず家庭裁判所に申請して許可を得る必要があります。役所では受け付けてくれませんので、その点に留意してください。
世界の国の苗字事情
最後に世界の主な国の苗字事情、特にアジア諸国にフォーカスして解説したいと思います。
日本に近い国々ですが、戸籍の有無の違いによって結婚後の氏の付け方にも違いがあり、また民族の違いや過去の歴史的な背景が苗字に色濃く残っていることが伺えます。
では、それぞれの国の苗字がどうやってつけられているのか、またその国独特の文化による違いについてみていきたいと思います。
中国の苗字
中国では男女平等の観点から自己の姓名を使用する権利が認められており、夫婦別姓が主流となっています。
子どもは親のどちらかの姓を選択することができますが、漢民族の伝統から父親の氏を使う子どもがほとんどです。
韓国人の苗字
韓国は男女問わず父親の氏を名乗る夫婦別姓が基本で、子どもに関しても原則父親の氏を名乗ります。
しかし、2005年の法改正により子どもの氏は父母が婚姻時に協議して決めることになり、母親の氏を名乗る子どもも増えてきているようです。
ベトナムの苗字
父系の氏を名乗り結婚しても夫婦別姓ですので、生まれ持った苗字を変えることはありません。
子どもは父親の氏を名乗り、母親の氏を名乗ることもできます。
また、母親の兄弟が女性ばかりの家系の場合は、兄弟の誰かが母親の氏を受け継ぐことがあります。
ベトナムの氏の特徴はその種類が非常に少ないことで、人口の約6割が3種類の氏で締められています。
なかでも多いのが「グエン」で、人口の約4割を締めています。
フィリピン人の苗字
婚姻した女性は「自己の姓+自己の名+夫の姓」「自己の名+夫の姓」「ミセス+夫の姓+夫の名」のパターンから選択することができます。
フィリピンはカトリック教徒が人口の9割を締めているといわれており、名前もキリスト教典や聖書からとることが多いといわれています。
また、過去にスペインやポルトガルの植民地であったことから、苗字にもその名残が見られます。
例えばフィリピンで最も多い苗字のサントスは、スペイン語で「聖人」を、次に多いレイエスもスペイン語で「王」「皇室」を表します。
まとめ
ここまで国際結婚をしたときの苗字(名字)、戸籍、国籍の変更と届け出の違いなどについて解説してきました。
外国人配偶者の苗字は日本の戸籍法の定めにより婚姻しただけでは変更することができないなど、やや複雑な制度になっています。
さらに、苗字の変更や離婚後の手続き、子どもの戸籍の問題など素人では対応が難しいものが多く、行政書士の力を借りることも考えておく必要があるでしょう。
氏がハッキリしなければ自分がどこの国の人間なのか分からなくなり、アイデンティティを確立できません。
国際結婚の前に、お互いの苗字についても話し合っておきましょう。