フィリピン女性と国際結婚した日本人夫が死んだ後の、相続はどうなるのか、夫も妻も知っていた方がよろしいかと思いますので、相続についての説明を記します。
1. 誰が相続することができるのか?
まずは、誰が相続の権利があるかという事です。
法定相続人とは?
誰が相続することができるのかについては、遺言がある場合を除いて、民法では、財産を相続できる順位と割合を定めており、これを法定相続といいます。
現在の法律では、
- 配偶者
- 直系卑属(子・孫・ひ孫)
- 直系尊属(父母・祖父母・曽祖父母)
- 兄弟姉妹
が法定相続人とされます。
2. 優先順位は?
その優先順位は次のとおりです。
- 配偶者→常に相続人になります。
離婚した過去の配偶者には相続権はありません。また、再婚した配偶者の連れ子は、配偶者を代襲して相続人となることはできません。 - 第一順位: 直系卑属(子・孫・ひ孫)
被相続人の血族の中で第一番目に相続人となります。被相続人より子が先に死亡している場合、孫がいれば、孫が、死亡した子に代わって相続人となります。(代襲相続といいます。)
再婚した配偶者に連れ子がいた場合は、法律上の親子関係がないので相続人となりません。 - 第二順位: 直系尊属(父母・祖父母・曽祖父母)
被相続人に、第一順位の人(子・孫・ひ孫)がいない場合に相続人になります。なお、父母のどちらかが健在であれば、祖父母まで遡りません。 - 第三順位: 兄弟姉妹
第一順位・第二順位の人がいない場合に相続人になります。なお、兄弟姉妹の子(甥・姪)には代襲相続が認められますが、兄弟姉妹の孫には認められません。
3. 相続手続き手順
相続手続き手順は以下のような流れになります。
被相続人の死亡 (相続の開始)
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1死亡届の提出
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2火葬許可申請書の提出
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3葬儀の準備および葬儀
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4葬式費用の領収書などの整理
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5初七日法要・四十九日法要
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6遺言書の有無の確認
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7相続人の調査、確定
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8相続財産・債務の概略調査
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9相続放棄または限定承認
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10相続財産・債務の調査 財産目録の作成
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11相続財産の評価
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12遺産分割協議
step
13遺産分割協議書の作成
step
14所得税の申告と納付
step
15相続税の申告と納付 相続税の申告書の作成
step
16相続財産の名義変更手続きなど
4. 相続財産について
被相続人が残した相続財産を調べて、財産目録や一覧表を作成しておきます。
それをすることによって、どのような財産がどれだけあるのかを把握することができますので、相続をするのか放棄をするかの判断などができます。
遺産分割の基本資料になりますので、速やかにかつ正確に行う必要があります。
もし、漏れがあると、遺産分割をやり直したり、相続税の申告漏れになってしまうこともあるので注意が必要です。
相続財産の調査とともに、財産目録(一覧表)にまとめていきますが、特に決まった様式というのはありません。
なお、ここでいう相続財産には、資産(土地・預貯金・株式など)のみならず、負債(借金など)も含まれますが、被相続人その人個人に与えられた権利・義務、資格など一身に専属したものなどは除かれます。
相続の手続きの中で重要なことのひとつに、相続税がかかる財産がどれくらいあるのかを調べる手続きがあります。
相続税の対象となる財産は大きく分けて
- 本来の相続財産
- 生前の贈与財産
- みなし相続財産
の3つに分けることができます。
- 本来の相続財産
相続人による遺産分割の対象となる財産のことです。 - 生前の贈与財産
相続により財産を取得した者が、相続の開始日から3年以内に取得した被相続人からの贈与財産のことです。
これらの財産はすでに被相続人の所有から外れていますが、相続税の計算上は本来の相続財産に上乗せします。 - みなし相続財産
本来的に被相続人の財産ではありませんが、相続税の計算上はこれを相続財産とみなして本来の相続財産に上乗せする財産のことです。
死亡保険金、死亡退職金などがこの分類に属します。
i. 相続される財産の範囲
相続する財産は、相続開始のときに、被相続人の財産に属した一切の権利・義務となります。ただし、被相続人その人に与えられた権利・義務・資格など一身に専属したものは除かれます。
a. プラスの財産
- 不動産(土地・建物)
- 不動産上の権利(借地権、借家権、地上権、抵当権、定期借地権など)
- 動産(現金、家具、自動車、貴金属、書画骨董など)
- 有価証券(小切手、株式、社債、国債、手形など)
- 債権(銀行預金、貸付金、売掛金など)
- その他の財産(著作権、商標権、意匠権、著作権、ゴルフ会員権など)
- 被相続人が保険者で受取人になっている生命保険
- 電話加入権
b. マイナスの財産
- 借金(借入金、買掛金、手形債務、未払金、損害賠償の支払いなど)
- 税金(未払いの所得税、住民税、固定資産税など)
- 預かり敷金
- 保証、連帯保証債務(責任の額が明確な場合)
ii. 相続されない財産
- 一身専属権(扶養請求権、生活保護受給権、国家資格など)
- 使用貸借権
- 仏壇、位牌、墓地、墓石などの祭祀財産
- 香典、弔慰金、葬儀費用
- 人的な義務(身元保証、信用保証、根保証債務など)
- 死亡退職金、遺族年金
- 生命保険金請求権
iii. 生命保険金について
被相続人が保険料を負担していた場合、受取人を指定していれば、その保険金は直接保険の受取人の固有財産になり、遺産分割の対象とはなりません。
相続人が相続放棄をしても生命保険金は受け取ることができます。
ただし、相続人が受取人の場合、他の相続財産を分割するときに、生命保険金を取得したという事実が特別受益として考慮されることはあります。
a. 受取人を相続人の誰か(例えば妻)に指定してある場合
保険金は相続財産をはなりません。
保険契約に基づき、受取人に指定してある相続人(この場合は妻)が全額を受け取ることになります。
したがって、遺産分割の対象となる相続財産には含まれません。
ただし、受け取った保険金が特別受益として考慮されることはあります。
b. 受取人をただ単に「相続人」としてある場合
相続財産とはいえませんが、相続人全員が保険契約に基づき保険金を受け取ることになりますので、遺産分割協議の対象にはなります。
c. 受取人を「被相続人」としてある場合
相続財産となります。
保険契約に基づき支払われる保険金は、一度被相続人に帰属するからです。
したがって、遺産分割協議の対象になります。
相続の場合、プラスの財産だけを引き継ぐわけにはいきません。マイナスの財産も引き継がなければならないのです。
つまり、プラスの財産が全くなくて、マイナスの財産だけだったとしても、このマイナスの財産(借金の返済義務等)だけを相続してしまいます。
となると、マイナスの財産が多い場合は、相続人の生活が脅かされることにもなりかねません。
そこで、法律は相続人の意思を尊重し、相続人の保護をはかる制度として、相続放棄と限定承認という2つの方法を認めています。
どちらを選択するかについては、プラスの財産をマイナスの財産がそれぞれどれくらいあるのかによって変わってきます。
5. 相続放棄とは
自己の意思によって、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がないのが相続放棄です。したがって、借金は相続したくないが家は相続したい、といったように、資産は承継するが負債は承継しない、ということはできません。
このような相続放棄は、通常は債務超過の場合に行われますが、例えば、他の相続人に財産を相続させたいときなどのように、債務超過でなくても相続人の自由意思によって相続放棄することができます。
i. 相続放棄の効果
相続放棄をした場合、その放棄をした相続人は、はじめから相続人ではなかったものとみなされます。
相続放棄をした相続人の子や孫に代襲相続は行われません。同順位の相続人の相続分が増えたりします。
また、仮に同順位の人が全員相続放棄をすると、次の順位の人が相続人になります。したがって、一人が、借金が多いということで相続放棄をすると、他の相続人に借金の相続権が移ってしまうことになるので注意が必要です。
なお、相続放棄をした人が、生命保険金や死亡退職金を取得することはできますが、その場合、全額が相続税の対象となります。
ii. 相続放棄の手続き
相続放棄は、他の相続人に関係なく、相続人が一人でできます。自分が相続人であると知ったときから3ヶ月以内に、被相続人が生前住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に申し出をしなければなりません。
提出先:被相続人の死亡した住所地を管轄する家庭裁判所
(家庭裁判所に、相続放棄の申述のための用紙が置いてあります)
- 提出者:相続放棄をしようとする人
- 提出期限:被相続人が死亡したことを知ったときから3ヶ月以内
- 必要書類:
- 放棄する相続人の戸籍謄本
- 被相続人の除籍(戸籍)謄本・改製原戸籍謄本
(出生から死亡までのすべての戸籍謄本) - 住民票の除票
- 印鑑
この3ヶ月の期間を過きてしまった場合や、相続財産に手をつけてしまったりした場合には相続放棄はできません。また、一度放棄をするとこれを取り消すことはできません。
6. 相続預貯金(銀行口座)の払戻・名義変更手続き
預貯金の口座名義人が亡くなった場合、亡くなった事を金融機関が確認した時点で、預貯金の口座は凍結されます。
口座が凍結されるとお金を引き出す事が出来なくなります。その口座からお金を引き出す為には、相続預金の払い戻し手続き・名義変更手続きが必要です。
この場合、払い戻す事も可能ですし、名義変更を行う事も可能です。銀行口座を継続して利用する場合には名義変更を行う事となりますが、お金が引き出せればいいというケースでは、払い戻し手続きをすればよい事になります。
相続預金の払い戻し手続きは以下のとおりです。
- 銀行に相続が発生した事を伝える
口座名義人が亡くなった事を銀行に伝えます。この時点で銀行は口座を凍結します。 - 残高証明書の請求
相続が発生した時点の預金残高を確認するために、預金の残高証明書を請求します。残高証明書は相続人が複数いても、相続人の一人から請求することが可能です。民法上の保存行為に該当します。残高証明書の請求に必要な書類は以下の通りです。但し、銀行によって添付書類は異なります。
- 被相続人(亡くなった方)の除籍謄本
- 請求者の戸籍謄本
- 請求者の印鑑証明書
i. 遺産分割協議を行う
取得した残高証明書を基に、相続預金を誰が取得するか、相続人全員で分割協議を行います。
この時に相続人の1人が全て取得する事にしてもかまいませんし、各相続人が法定相続分どおりに取得する事としてもかまいません。
ii. 払戻を依頼する
遺産分割協議の内容に従って、銀行に払戻を請求します。
払戻請求に必要な書類は次のとおりです。但し、銀行によって添付書類は異なります。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員名義の払戻依頼書
- 被相続人(亡くなった方)の除籍謄本・・・出生から死亡までのもの全てが必要です。
- 相続人の戸籍謄本
- 預金通帳
iii. 口座凍結の解除手続き
払戻依頼をすると、銀行は口座の凍結を解除します。
iv. 代表相続人口座へ振込
事前に、相続預金を振り込みするための銀行口座(代表者のもの)を用意し、その代表相続人名義の口座へ銀行が振り込みを行います。
v. 代表相続人が各相続人の口座へ振込
遺産分割協議の内容に従って、代表相続人の口座に振り込まれた預金を、各相続人の銀行口座に振り込みます。
vi. 相続預金の名義変更
亡くなった方の銀行口座を、相続人が引き続き利用する場合には、名義変更を行うこととなります。
銀行預金は譲渡禁止特約が付されていますので、通常は名義変更を行うことはできません。
相続の場合には、譲渡禁止の例外として、名義変更を行う事ができます。
名義変更の手続きは、上記の払戻手続きとほぼ同様です。
銀行口座を引き続き利用するケースはあまり無いと思いますので、通常は、名義変更ではなく、払い戻し手続きを行えばよいと思います。
相続が発生した後、相続手続きをしないまま10年を経過すると、預金債権は時効によって消滅してしまいます。
7. 相続欠格
次のような事由に該当すると、何の手続きがなくても相続権を失い、また、遺贈を受ける資格も失います。
- 故意に被相続人(死亡した人のこと)、または先順位もしくは同順位の相続人を殺し、または殺そうとして刑に処せられた者(過失致死や傷害致死は含まれません)
- 被相続人が殺されたことを知っていながら、告発、告訴しなかった者
- 詐欺、脅迫によって、被相続人の遺言の作成、取消し、変更を妨げた者
- 詐欺、脅迫によって、被相続人に遺言をさせたり、取り消させたり、変更をさせた者
- 被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者
8. 相続廃除
被相続人に対し、虐待をしたり重大な侮辱を加えたとき、もしくはその他の著しい非行があったときに、被相続人が、家庭裁判所に相続廃除の請求をすることにより、又は、遺言をすることによりその者を相続人から廃除することができます。
相続廃除の審判が確定すれば、相続人は相続権を失います。単なる意思表示では相続廃除はできません。
また、相続廃除できるのは、遺留分を有する推定相続人のみです。つまり、兄弟姉妹には「遺留分」がないので、廃除することはできません。
相続廃除は、被相続人または遺言執行者のみができます。その他の相続人が、被相続人に代わって相続廃除の請求をすることはできません。
裁判所で、「相続廃除の請求」が認められなかった事例
- 親の反対を押し切って結婚した
- そりが合わない
などは認められませんでした。
相続廃除の取り消しは何時でもできます。ただし、家庭裁判所に対して、相続廃除の取り消しを請求する必要があります。
遺言による相続廃除の場合、遺言執行者が手続きをします。遺言執行者の指定がない場合、執行者の選任請求が必要となります。
9. 遺留分
相続人のために民法上確保された一定割合の相続財産を、遺留分といいます。
遺言によって、相続人以外の人や法人に財産をあげることができるようになっており、遺言書で書かれた内容は、法定相続人・法定相続分よりも優先されますが、「自分が死んだら、愛人に全財産をあげる」という遺言書を作られてしまうと、残された家族は気の毒です。
相続人のこれまでの財産形成上の寄与の度合いや、今後の生活保障などを考慮すべきです。
そのため、民法では最低限相続できる財産を遺留分として保障しているのです。
遺留分が保障されている権利者は、被相続人の配偶者、子供、父母(直系尊属)です。ただし、子供がいる場合は、父母に遺留分はありません。
なお、法定相続人の第3順位である兄弟姉妹には、遺留分は保障されていません。
侵害された遺留分を確保するためには、遺言により財産をもらった人等に、「遺留分減殺請求」をする必要があります。
さらに、「遺留分減殺請求」の権利は、相続開始、および自分の遺留分が侵害されていることを知った日から1年、あるいはそれを知らなくても相続開始の日から10年を過ぎると、時効で消滅します。
i. 遺留分の割合
遺留分の割合は、法定相続人が親などの直系尊属だけの場合は、遺留分算定の基礎となる財産の3分の1となり、それ以外(法定相続人が配偶者のみ・子供のみ・配偶者と子供・配偶者と親)の場合は、財産の2分の1になります。
なお、1人ひとりの遺留分は、全体の遺留分に各自の法定相続分の率を乗じて算出します。
相続人 | 全員の遺留分 | 相続人の遺留分 | |||
配偶者 | 子供 | 父母 | 兄弟 | ||
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | X | X | X |
配偶者と子供 | 1/2 | 1/4 | 1/4 | X | X |
配偶者と父母 | 1/2 | 2/6 | X | 1/6 | X |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 1/2 | X | X | X |
子供のみ | 1/2 | X | 1/2 | X | X |
父母のみ | 1/3 | X | X | 1/3 | X |
兄弟姉妹のみ | X | X | X | X | X |
ii. 遺留分算定の基礎となる財産
「遺留分算定の基礎となる財産」とは、被相続人(遺言者)が相続開始時において持っていた財産の価額(いわゆる遺産)に、生前贈与した財産の価額を加えた額から債務を差し引いて算定します。
相続人以外に生前贈与した財産は、原則として相続開始前の1年間にしたものに限って算入します。
ただし、相続開始の1年以上前にした贈与であっても、贈与当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したものは、遺留分算定基礎財産に算入されます。
なお、法定相続人への贈与は、特別受益として相続の前渡し分となりますので、原則として何年前のものであっても遺留分算定基礎財産に算入されます。