ご参考までに、フィリピンの離婚に関するお話をします。
1. フィリピンでは法律上「離婚」が存在しない
ご存知の通り、フィリピンでは法律上「離婚」が存在しません。フィリピン人妻は離婚自体がフィリピン法で認められていないので、フィリピンではそのままでは再婚はできません。
離婚をするためには、裁判所に申し立てをし、これを認める裁判所の判決が必要なのです。
2. 「レコグニション」と、「アナルメント」
i. 「レコグニション」
「レコグニション」とは、海外で適法に成立した離婚をフィリピン側で承認する離婚承認裁判です。
フィリピン人の元妻は、フィリピンで再婚したければ、この「レコグニション」手続きをとらなければなりません。
具体的には、フィリピン国外で成立した離婚は、フィリピン国内の地方裁判所(The Regional Trial Court/RTC-Phil)において民事訴訟を起こし、法的に承認させなければなりません。
ii. 「アナルメント」
「アナルメント」は、フィリピンにおける婚姻解消手続きで、「アナルメント」手続きをフィリピン裁判所に申し立て、最終的に「婚姻の解除」という判決を受けて Annulled されるか、「婚姻の無効」 = Null and Void の判決を受ける事となります。
これは、日本人男性が恋に落ちて添い遂げたいと思ったフィリピン女性が、過去に現地のフィリピン人と結婚していた場合にやる事です。
3. バチカン市国とフィリピンだけ離婚制度なし
世界で離婚制度がない国は、バチカン市国とフィリピンだけ。
カトリック教徒が8割以上を占めるフィリピンでは、教会や保守派などが宗教と結婚とを強く結びつける考え方から、離婚制度の導入に反対してきたのです。
しかし、カトリック教徒が94%を占め、離婚を非合法としていたマルタが2012年に離婚を合法化したことで、フィリピンでもリベラル派を中心に「マルタに続くべきだ」との声が高まり始めました。
フィリピンにおいて裁判所への離婚申し立てはマニラ首都圏だけで毎月、約800件にのぼり、その大半が女性で、92%がカトリック教徒だといいます。
しかし、離婚申し立てに始まる裁判手続きは長期にわたり、費用がかかるだけではなく精神的苦痛も伴いますので、裁判所に離婚申し立てをしないまま何年も別居生活をし、新しい「夫」や「妻」、子供がいる男女は数知れないようです。
4. 「日本人の配偶者」とは?
ところで、そもそも、「日本人の配偶者」とは?というところからお話しますと、出入国管理法では、在留資格と、その日本においてできる活動が定められています。
例えば、身近なところで言えば、2004年まで多かったフィリピンパブのホステスさんは、「興行」という就労が許される在留資格で、ビザを取り、エンターテーナーとして来ていたわけです(実質はフィリピンパブで客の横に座るホステスなのですが、ダンサーとか歌手として)。
留学生は、「留学」という在留資格です。
これは就労に関しては、アルバイト先が風俗営業又は風俗関係営業が含まれている営業所に係る場所でないことを条件に、1週28時間以内を限度として、勤務先や時間帯を特定することなく、包括的な資格外活動許可が与えられます(当該教育機関の長期休業期間にあっては、1日8時間以内)。
コンビニなどで頑張って働いている姿をよく見かけますね。
フィリピン人女性は、出入国管理法で定められている在留資格の中で、「日本人の配偶者等」というカテゴリーに該当します。
上記の留学生のような就労制限はありません。何時間でも、どんな仕事でもできます(適法な仕事なら)。
5. 離婚した場合は?
さて、離婚した場合の在留ステータスはどうなるでしょう?
元妻が永住権を取っていれば離婚後もそのまま日本にいることはできます。
では、永住権を取っていない場合、元妻は、即刻、日本を離れなければならないのでしょうか?
それとも在留カードの有効期限中であれば日本にいられるのでしょうか?
答えは、離婚をした場合でも、即刻日本を離れなければならないのではなく、6ヶ月はいられます(離婚したという届出は離婚後14日以内に入管にしなければなりません)。
逆に言いますと、「日本人の配偶者等」の在留資格を有する外国人の方は、配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6 か月以上行わないで在留している場合、在留資格取消しの対象となります。
離婚の話からはそれて、少し余談になりますが、配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6 か月以上行わないで在留している場合(別居とか)であっても、これについて正当な理由があるとき、例えば、日本国籍を有する実子を監護・養育しているなどの事情がある場合には、他の在留資格への変更が認められる場合があります。
<事例>(離婚に限らない)
- 配偶者からの暴力(いわゆるDV)を理由として、一時的に避難または保護を必要としている場合
- 子供の養育等やむを得ない事情のために、配偶者と別居して生活しているが生計を一にしている場合
- 本国の親族の傷病等の理由により、再入国許可(みなし再入国許可を含む)による長期間の出国をしている場合
- 離婚調停又は離婚訴訟中の場合
さて、再び離婚したフィリピン人元妻の話に戻ります。
永住権がなくても、元妻の間に子供さんがいて、元妻がその子の親権を取り、元妻にその子を扶養していけるだけの収入があれば、「定住者」への資格変更を申請して、元妻はそのまま日本に滞在することができます。
「定住者」の在留期間は1年ですが、子供さんを養育している間は在留期間を更新することができます。また、「定住者」の在留資格は就労制限はありません。
元妻との間に子供さんがいない場合、もしくは、子供さんがいても日本人夫がその子の親権者として養育している場合はどうでしょう?
その場合でも、元妻が安定した職業についているなど日本で安定した生活を現実に営んでいれば、在留資格「定住者」への資格変更が認められる可能性もあります。
「技術・人文知識・国際業務」などの、就労ビザを取得するという可能性も考えられますが、これは学歴・職歴など各就労ビザで要求されている許可要件がクリアできる外国人のみが選択できる方法ですので、普通の主婦としてのフィリピン人の元妻には、現実的ではないと思われます。
つまり、例えば、IT関連技術者、機械等の設計者、新製品の開発技術者などとか、翻訳・通訳業務、服飾や室内装飾のデザイン、情報処理業務などの場合とかですし、在留資格「教育」は、小学校~高等学校で教師をしている場合です。
自ら会社を設立することができるだけの経済的余裕がある場合には、「経営・管理」へ在留資格を変更することもできますが、これも、普通の主婦としてのフィリピン人の元妻としては、現実的ではないと思われます。
学費を工面することができれば、日本の大学や専門学校に入学し「留学」ビザへ在留資格を変更することも可能ですが、これまたフィリピン人の元妻としては、現実的ではないと思われます。
前述のように「留学」という在留資格は就労制限がありますし、フィリピン人の元妻にメリットはないでしょう。